5月31日
「被曝」という言葉に行きあたる。何の変哲もない、というか、あまりにもベタな、当たり前過ぎるほど当たり前の言葉だが、何故かしっくりとした手応えを感じる。おそらく「被曝」ではなく「ヒバク」だろう。まず「ヒバク」のテキスト。次に「ヒバク」の劇。制限時間は一年間。
5月30日
明後日からの香港、南京行きを前に、『声』最終稽古。銕仙会の清水寛二さん、西村高夫さんの協力を得た、郭宝崑『霊戯』冒頭、エピローグと能『善知鳥』のキリ部分を組み合わせた三十分足らずの小品。演ずることの一回性を身につけた能役者の即興性の深さ。
5月29日
梅雨入り。庭の紫陽花もたくさん花をつけそうだし、しとしと降る雨も決して嫌いではない。薄暗さと湿気と、それはそれでこの風土らしい風情なのだ。レインコートをしっかりと着込み、深々と傘をかざして懸命に雨から身を守ろうとしている己が姿がつくづく情けない。
5月28日
録画しておいたNHKのETV特集『ネットワークでつくる放射能汚染地図』を見る。事故直後から被曝地に入り測定をつづける放射線医学研究所の元研究官木村真三さんと放射線研究者たちを描く。彼らの傍らには、瞬時に生活のすべてを奪われた人びとの姿が。
5月27日
十五、六時間連続睡眠と徹底うがいのおかげで、活動再開。劇場と区役所を往復して、『ふたごの星』audition、会議、打合せ三件などなど。それにしても、とつくづく思う。何をやるにしても、考えるにしても、根本的な自分の立ち位置の見極めが何ともおぼつかない。
5月26日
この二、三日、どうも体がだるいと思っていたら、どうやら風邪をひいたらしい。熱っぽく、ときどきゴホゴホと嫌な咳も出る。予定をすべてキャンセルして、終日自宅休養。ラジオを子守歌に眠って過ごす。エンジンを切って、ただひたすらだらだら坂を下っていく気分。
5月25日
アカデミー演出ゼミ。ソポクレス『オイディプス王』について、受講者それぞれの演出プランとテキスト読解。読みが深まるに従って、作者の構想と巧緻な作劇術が浮かんでくる。最後の十分、受講生劇作家樋口ミユさんから3.11後の演劇活動について、真摯な質問。
5月24日
劇場創造アカデミー修了者の中から、さらに二年間、劇場研修をを希望し、書類選考を通過した七名の面接がはじまる。面接にあたる劇場スタッフたちがもっとも知りたいのは、彼らの劇場への夢と熱意。ここでなければ出来ない「それ」を彼ら自身が指し示すこと。
5月23日
雨。以前は、寒い日でなければ、傘を差さずに濡れて歩くのが好きだった。いまは大きめのビニール傘が欠かせない。用心というか、気休めというか……とにかく濡れるのは嬉しくない。このような日々が、たぶんこれからずっと。しっかりと見、聴き、記憶し、伝えよう。
5月22日
二月に上梓した『学校という劇場から』(論創社)の関係者が集って「お疲れさま」の小宴。現役教員を中心に学芸大学院ゼミが縁で糸の結ばれた七人と、ゲスト格の教育学者里見実さんが参加。3.11以降の新しい世界について里見さんの意見を伺えたのが嬉しい。
5月21日
三年間の能と昆劇交流企画。六月、香港、南京、東京でのパフォーマンス上演、ワークショップ、研究交流プログラムからいよいよスタート。夜、銕仙会の清水寛二さん、西村高夫さんとともに、郭宝崑『霊戯』による小作品を稽古。刺激と発見の多い二時間を過ごす。
5月20日
デスクまわりの資料や細々とした事務作業はなんとか片づいたのだが、肝腎の頭の中がスッキリしない。懸案事項というか、未解決のモヤモヤがあれこれ思い浮かびこころが迷う。課題は「いま」という時との関わり方。参加でもなく逃避でもなく、もっと別の何か。
5月19日
今年度から「あしたの劇場」の新しいレパートリーに加わる『ふたごの星』、audition workshop。黒テントからの出演者二人に加えて、アカデミー修了ほやほやの七人+新国養成所出身の北川響くん。音楽担当のKONTAさんも参加して、音楽つきの体遊びを二時間。
5月18日
劇場でアカデミー授業。午前中はⅡ期生の演出ゼミ、午後はⅢ期生の演技基礎。テキストはどちらもソポクレス「オイディプス王」。演出ゼミは今期編入の劇作家樋口ミユさんを含めて三名の小所帯。久しぶりのギリシア劇への取り組みは、自分の錆落としの意味も。
5月17日
午前中、自宅作業。稽古の追い込みで手がつかなかった細ごまとした個人事務をメモ帳をかたわらに片づける。午後は劇場で、同じくデスクまわりの整理。頭の中も大分スッキリとしたが、九月まで隙間のない日程と福島からのモヤモヤとの折り合いはまだ未整理。
5月16日
振り返れば、何はともあれ怒濤の二カ月間であった。終日、惚けて自宅で過ごす。ただし、ここ数日、深刻な事態が次つぎに明らかになっている福島原発についの情報収集はいつも通り。上演延期の「過剰反応」が、そんなに「過剰」でもなかったらしいのが恐ろしい。
5月15日
劇場創造アカデミー修了上演、マチネ。3.11以来、40日遅れの二日間を無事修了。夜、劇場2階のカフェレストランで、修了式とⅡ期生主催のパーティー。送り出す20人の修了生と共に無我夢中で過ごした二年間。劇場スタッフをはじめ、たくさんの協力者に感謝。
5月14日
劇場創造アカデミー修了上演、初日。満員の客席に、演劇関係、区関係など、劇場ゆかりの顔が大勢見える。修了生の直球演技に浮かびあがる、ボンドのテキストの人間性と力強さ。困難な作業だったが、取り組むべき時に取り組むべきテキストに出会えた喜び。
5月13日
一日劇場にこもり、照明合わせ、場当たり、舞台稽古。照明・斎藤茂男さん、音響・島猛さん、ステージマネジャー・鈴木章友さんといつものメンバーと共に、とどこおりなく進行。芝居細部のダメだしは生田さんに預け、半ば観客の視線で全体の流れをざっくりと見る。
5月12日
仕込み日。演出班、学芸班、制作班を劇場に残し、出演者たちは仕上げの自主稽古に励む。第一部『赤と黒と無知』組は、客演のさとうこうじさんに付き合ってもらい、ようやく感触をつかんだ笑顔。第二部『缶詰族』組は、じっくり腰を据えて大詰めの難所越えに挑戦。
5月11日
アカデミー修了上演、最終稽古。研修生たちには最後まで厳しい顔を演じ通したが、実際の上演についての手応えは確実に感じている。よく話を聞き、素直に受け入れ、ここまで作品と格闘してきた彼らに、相応の果実を受け取ってもらうための、最後のひと仕事。
5月10日
座・高円寺地下三階。稽古場三室、作業場三室(道具、衣装、音響)には、アカデミー終了上演の稽古、Ⅱ、Ⅲ期生の講義と実技、Tファクトリー『豚小屋』(川村毅、演出)稽古、劇作家協会の集まりなどなど……知った顔が次々と。今日は美術家の宇野亜喜良さん。
5月9日
アカデミー修了上演、初日目前。稽古場を「阿波おどりホール」に移して上演二作品のうち、『赤と黒と無知』の実寸通し稽古を二回。客演のさとうこうじさんのメーク、衣装合わせも同時に。パワー全開のさとうさんが、共演の研修生に要求するハードルは高く、厳しい。
5月8日
一昨年暮れの病気以来、朝の体重、朝夕の血圧測定と記録をつづけている。神経質なカロリー計算や塩分制限はしていないが、食べ物の量と体重が驚くほどシンプル比例するのが面白い。同じく、血圧が平常値だととたんに気分が爽やかという単純さもなかなか。
5月7日
稽古のかたわら、研修終了後のⅠ期生の進路について、劇場スタッフ用のレポートをまとめる。研修生との面接、提出された活動計画、この二年間の研修実績などから、さらに二年間の研修員候補五名を提案。彼らとともにここまで、彼らとともにさらに一歩先へ。
5月6日
初日を一週間後にひかえた稽古場の緊張感、きらいではないが頼りすぎると落し穴がそここに。どんなに緊迫した作品でも、舞台にはゆっりとした「構え」がほしい。縦横斜め、まだまだ抜け道はたくさん残されていると思う。「ずれ」や「きしみ」や「行き違い」の面白さ。
5月5日
昨日とはうって変わった肌寒い一日。劇場で開催中の「リトル高円寺」には、今日も楽しそうな子どもの声が。午前中、絵本作家の亀山、中川夫妻(tupera tupera)が愛娘トコちゃんと一緒に来場。トコちゃんからは「赤いクイズ」「黄色いクイズ」という謎言葉の贈り物。
5月4日
ホワイトハウス作戦司令室。あまり広そうには見えない平凡な部屋。テーブルを囲んで、「突撃始めます」の声とともに始まったアボタバードからの生中継映像を見つめる、米大統領以下、閣僚の群像。新聞一面に掲載された報道写真に戦慄。何故、この写真を?
5月3日
最終コーナー目前の稽古場。レースとは違って、ここから一気にとしゃかりきになっても仕方がない。俳優は競馬馬ではないし、演出家も騎手ではない。最後の直線からゴールまでは俳優の孤独なひとり旅。おまけに早いもの勝ちというわけでもない。焦らず騒がず。
5月2日
おだやかな日差しに誘われて、座・高円寺まで自転車。気持ちよく風に吹かれているうちに気づく。校庭の表面を削り取った土の山のかたわら、校舎に押し込められ、今日のような青空の下を自由に駆け回ることも出来ない子どもたちに、いったいどんな言い訳が?
5月1日
今日からまた、「五行」ではなく「120文字」に衣替え。一昨年五月オープンの座・高円寺では、この連休から新シーズンがはじまる。午後から、町中で展開中の「高円寺びっくり大道芸」と座・高円寺1の「リトル高円寺」を覗き歩く。子どもたちの賑やかな声がいい感じ。