10月31日
能の清水さん、西村さんが加わり、全員参加の稽古場。
これまで通り、日本語、中国語が入り交じるかたちで、通しの読み合わせ。
宝崑の言葉のひとつひとつを吟味しながら、ふさわしい声のかたちを探る。
終わって、冒頭二場の荒立ち。
昆劇ふたりの応答は、今日も的確。
10月30日
東京ワンダーサイトのレクチャー「アヴァンギャルドと語る伝統」、横浜BankART大野一雄フェスチバル『Journey』。
「場所、記憶、対話」プロジェクトで協働しているダニー・ユン(香港、ズニ イサコヘドロン)のプログラムを梯子。
青山でのレクチャーは、横浜のパフォーマンスに参加している南京昆劇院からの二人と共に、ダニーらしいオープンな雰囲気。
横浜のパフォーマンスは、ダニーが取組み中のもうひとつの『霊戯』の、ワークインプログレス。
作品の最後に組み込まれたディスカッションテーブルに呼び出され、三十秒間ほど踊り、二分三十秒間ほど喋る。
10月29日
五月、六月、能楽師とのワークインプログレス、九月、南京昆劇院でのワークショップ。
伝統演劇の演者たちとの稽古場は、緊密で無駄のない時間の運びがここちよい。
稽古二日目、演出プランが次々と書き換えられ、具体的な舞台の骨格が早くも立ち現れる。
演じる技術ではなく演じることへの構えの確かさ(あるいは、純粋さ)。
そこにいま見えてくる世界を夢中で追う。
10月28日
『霊戯』、稽古イン。
日本語、中国語が飛び交う読みあわせを一回。
テキストの読みと演出プランを詳しく伝えたあと、すぐに立ち稽古。
孫くん、唐さんの鋭敏な応答は南京でのワークショップでの手応え通り。
笛田さんの解放、張さんの周到な準備……
10月27日
終日、劇場。
斎藤憐さんと共有していたデスクの片づけ。
部屋が少しだけ広くなった感じが、無性に寂しい。
南京から、昆劇俳優の孫くん、唐さん来日。
夜、能楽師西村さんをはじめ、キャスト、スタッフが集い、歓迎の「飲み、食い」会。
10月26日
気持ちのいい秋晴れ。
久しぶりに神田の古本屋街を散策。
途中、ゴルドーニに立ち寄り、おいしいお茶をご馳走になりながら、主人宮島さんと雑談。
神田まつやでもり蕎麦。
夜、高円寺へ戻り、『ユーリンタウン』。
10月25日
今回の「鴎座」第Ⅱ期上演活動3は、思い切ってチケットレスを実行。
ということは、とにかく「観に行ってやるか」という方々が、自らの手で予約の手続き(ネットなり電話なりFAXで)をして下さらない限り、客席は埋まらない。
現在、全五回の上演に対して、予約9件。
初日まであと三週間。
よ、ろ、し、く、お願いいたします。
10月24日
土曜日から三日間、基本的に自宅で過ごす。
収穫は……病気以来つづけている体重管理の再調整。
発病前と比べれば、量的には確実に減ってはいるのだが、中国行きなどの機会ごとにじわりじわりと上昇し、気がつくと退院時からなんやかんやで6㎏の増。
うーん、というわけで、病院からもらった食事指導のペーパーを読み直し、態勢をたて直す。
「生活習慣病」という強迫的概念に膝を屈するのは、なんとも悔しい思いが残るのだが。
10月23日
『霊戯』上演テキストを繰り返し読む。
演出のイメージづくりではなく、テキストの「あら探し」「綻び探し」に専念。
自作、他作の区別なく、こうして探し出したテキストの不具合こそが、しばしば上演の「核」となる。
ま、当たり前の話だ。
書き言葉から話言葉への転換……「沈黙」「言い淀み」「言い間違い」、加えて「咄嗟の嘘」のリアリティ。
10月22日
iPhone/青空文庫読書での出会い(『李陵』)をきっかけに、中島敦全集(全三巻、ちくま文庫)に耽溺中。
これまできちんと読んでいなかったのが悔やまれるというか、ここでの出会いの僥倖を喜ぶというか、とにかくこれまで『山月記』その他の漠然とした印象でやり過ごしていたこの作家の真髄に唖然、呆然。
とりわけ、残された唯一の長編『光と風と夢』の無類の面白さ。
『宝島』で知られる(と、いうわが紹介の貧しさよ!)イギリスの作家スティブンソンのサモアでの日々。
作中、作者自身の投影とも思われる主人公が日記に記す「要するに、文学は技術だ」の高みを納得。
10月21日
『霊戯』衣装打合せ。
朝、自宅で整理したメモをもとに三十分ほど。
終わって、オーストラリアから来日中のジェイソン・クロス(プロデューサ)と面談。
沖縄キジムナー・フェスタ、ディレクター下山さんのお嬢さんが通訳。
お互いの手持ち作品を見せあいセールス合戦。
10月20日
木曜日は、原則、座・高円寺のルーティン作業日。
午前中、全体ミーティング、午後、アカデミー授業。
その他、デスクワーク、および調製ごといろいろ。
嬉しい知らせふたつ。
エドワード・ボンド『戦争戯曲集』全編翻訳の初稿完成(近藤弘幸さん、お疲れさまでした!)、『ピン・ポン』12年度旅公演決定。
10月19日
座・高円寺。
Ⅱ期生の修了上演準備など、事務作業、いろいろ。
夜、『霊戯』、稽古。
能の清水、西村さんと笛田さん、張さんとで本読みのあと、清水、西村さんの場面のスケッチを伝える。
かすかな水の香り、ゆたかな地下水脈を確信する。
10月18日
二日間の自宅作業で溜まっていた雑事務を片づけ、机まわりがすっきりした感じがする。
『霊戯』構想も進捗はしているのだが、もうひとつ、大胆な展開が欲しい。
能、昆劇とのかかわりを予定調和的なまとめ方でお茶を濁したくない。
もちろん、宝崑のテキストについても同じ。
「死者たち」と「詩」……そして「暴力」。
10月17日
終日、原稿書き(打ち)。
窓からの穏やかな陽光ここちよく、作業はかどる。
夕方までに予定を終え、ひと息。
「鴎座」の稽古が迫っている。
明日は俳優たちとの作業に備えてのノートづくり。
10月16日
時々、嘘をつく。
大抵はとるに足らない嘘で、しかも下手糞だから、面と向かって指摘されたことはないが、他人にはすべてお見通しだと思う。
まるで役にたたない嘘のようだが、そうでもない。
他人は騙せないが、嘘をついた当人はすっかり騙される。
そうやって、いま、何とかここに居る。
10月15日
友を送る日。
ご家族と僅かな人びとが集う、こころあるひとときを過ごす。
巡り合わせに導かれて、出会い、訣別し、ふたたび出会った。
思いはいつも、最初の出会いから過ごした数年間の濃密な時間に戻る。
ともに見た夢とその行方と。
10月14日
気がつくと十月も半ば。
三年半ぶりの「鴎座」第Ⅱ期上演活動をひかえて、何かとせわしない日々が徐々に。
であればなおのこと、稽古に向けて、気持ちを静め、こころと頭を整理しておかなければ。
あわせて、個人劇団の制作作業、いろいろ。
こちらは、即断即決、即実行ね。
10月13日
斎藤憐さんが亡くなった。
十八歳で知り合い、ついあいは間もなく五十年になるところだった。
西麻布のアンダーグラウンド・シアター自由劇場も、黒テントも、憐さんがいなければ、決して実現しなかっただろう。
最後に座・高円寺で、机を並べて仕事ができた巡り合わせに感謝。
たくさんの聞くべき言葉を抱えたまま、ひとり旅立ってしまった。
10月12日
神楽坂へ、黒テントアクターズワークショップの講師として。
授業前、イワト劇場入り口で、出発前の『窓際のセロ弾きのゴーシュ』旅班の若いメンバーと。
授業後、三階稽古場で会議中の、中堅、ベテランメンバーと。
それぞれ、二言三言。
言葉は少なく、伝えあえたこと、いろいろ。
10月11日
早起きして、『霊戯』、仕上げ作業。
昨夜、最後の最後に思い浮かんだアイディアを取り入れて、全体を整理する。
お気に入りの手打ちうどんを昼食に、帰京。
夜、銕仙会の清水、西村さん、笛田さん、張さんと最初の打合せ。
完成したばかりの上演テキストを手渡す。
10月10日
昨夜から、啓子ともども、二晩の山籠もり。
作業中の啓子作品を見せてもらったあと、ひたすら『霊戯』。
環境が変わったせいか、一気に筆(実際はキーボード)が走る。
逡巡せずに、終幕まで。
夜半過ぎ、とりあえず脱稿。
10月9日
終日、『霊戯』テキストに取り組む。
いつものことだが、当初計画に沿って実際に書きすすめると、どこかで行き止まりに突き当たる。
ここから先は、理屈では道は見つからない。
ただひたすら、自分の中で熟成される「なにか」を待つ。
書き、立ち止まり、戻りを繰り返しながら、待つ。
10月8日
『霊戯』、上演テキストづくり。
宝崑の言葉の中からいくつかを、慎重に手にとって吟味する。
秋の一日、浜辺で海風に吹かれながらの貝拾いのよう。
完全なかたちよりも、どこか不規則な、あるいは風化した傷のあるものがいい。
「言葉」はノイズ、淫らに、切れ切れに。
10月7日
武内靖彦踏業四十周年記念独舞リサイタル『舞踏よりの召還』(座・高円寺1)観劇。
体ひとつで癖の強い座・高円寺1の裸の空間に対峙するいさぎよさ。
時間、空間のよどみない流れに集中しながら、同時に、あれこれ自由に思いを巡らすこころよいひとときを過ごす。
一方に能、一方に舞踏。
その身体感覚への親近感。
10月6日
アカデミーⅡ期生の授業。
今日から、修了公演、エドワード・ボンド『戦争三部作』への助走。
第二部『缶詰族』のコロス部分をテキストに、アンサンブル演習から。
受講生たちが発表をまとめている間、隣の稽古場で『ユーリンタウン』稽古中の清水宏と雑談。
『また、スフィンクスみたいなこと言って煙にまいてるんでしょう』とからかわられる。
10月5日
昼、帰京。
劇場に直行し、来日中のガルディ(演出家/フィリピン)とワークショップの打合せ。
劇場staffとともに、今回、interpreterを依頼した黒テントの太田真紀子も同席。
一時間ほどで途中退席して、青山銕仙会へ。
当主、観世銕之亟さんにお目にかかり、現在進行中の「能、昆劇交流プログラム」について。
10月4日
京都。
開催中の「京都舞台芸術フェスチバル」、フォーラム企画に参加、京都造形大学の森山直人さんと対談。
「劇場」をめぐるあれこれについて、二時間ほど話す。
例によって、途中から対談相手をほったらかした一方的なお喋りに突入、ノーコントロール状態に。
やれやれ、ほとほと、すごすご。
10月3日
座・高円寺へ。
明るい日差しに誘われて、久しぶりの自転車通勤。
アカデミー二期生、木野花クラスの発表会(北村想『寿歌』)見学。
想さんの言葉にいどむ研修生たちの演技のひたむきさに好感。
その後、フィリピンから研修で来日した元PETAの演出家ガルディ、再演『ユーリンタウン』稽古中の流山児祥、清水宏などと。
10月2日
『霊戯』上演に向けてHPを更新。
「鴎座」は文字通りの個人劇団。
今回は一切合切が、フリンジ企画でサラ・ケ-ンと取り組んでいる川口智子との二人態勢。
点から線へ、そして小さなひろがりでも緊密な網へ。
とりあえず、「チケット予約」のご支援をよろしくお願いいたします。
10月1日
南京→上海→成田。
国慶節の連休にひっかかり、直行便がとれず、上海での約三時間のトランジットを含め、半日がかり。
長い間書棚に積んであった、孫歌『竹内好という問い』(岩波書店)を読む。
中国社会科学院所属の研究者による、深みのある竹内好論。
竹内の「歴史意識」とベンヤミン「歴史哲学テーゼ」との重なりの指摘に頷く。
(9月頁に、南京日録をUPしました)