2013年3月

3月31日


薄曇りの中、気温は七度、真冬の寒さとか。


大学、公立劇場と生活をつづけているうちに、いつの間にか年度替わりの習慣が身についてしまった。


というわけで、今日はプチ大晦日。


たまっていた書類を自宅で整理したあと、床屋で散髪。


明日は座・高円寺の25年度プログラム発表会。



3月30日


花冷え。


昼食後、啓子と自転車で善福寺公園に。


散り際の桜見物。


地面に、池に、無数の桜の花びら模様。


さて次は、青葉の季節。



3月29日


茅野市民館から、十周年記念事業に取り組んでいる市民グループの代表者と劇場運営スタッフが来館。


諏訪高原から車に分乗して高円寺まで。


事業企画実現のためのヒアリング。


コミュニティシアターへの思いのたけを、一気に一時間。


なにかの役に立てばうれしいが。



3月28日


『リア』スタッフ打ち合わせ。


美術の島次郎さんが持ってきた検討用の白模型を前に、映像の飯名尚人さん、舞台監督の北村雅則さん、演出助手の鈴木章友くんと。


気心の知れたスタッフとの会話は、妄想的なアイディアと実際的な細部が同時並行ですすむ、独特の雰囲気。


終わって、主演の渡部美佐子さんを交えて、衣装、メーク、鬘の打ち合わせ。


それぞれがプロらしく周到に準備してきたアイディアを披露。




3月27日


久留米の田主丸町へ。


豊かな自然の中にひろがる造園農家の果樹園。


ここは葡萄「巨峰」の原産地でもある。


公開されている一軒で、はじめて見るふっくらと大きな花をつけた桜の古木に遭遇。


イギリスで品種改良されて1930年代に逆輸入されたという「太白」 。




3月26日


体を動かさなくてはと思う。


というか、体の方がしきり「動かしてくれよ」と訴えかけている。


病後に取り組んでいた二十分間ストレッチは半年ほどで消滅、去年のラジオ体操は三日で飽きた。


あたらしい自己流メニューを開発しないと、体は確実に錆つきはじめている。


で、もちろん頭も体の一部だから┄┄



3月25日


早朝、福岡久留米へ。


市が建設予定のあたらしい文化施設づくりの手伝い。


劇場計画への参画は座・高円寺が最後と思っていたが、思わぬ縁のつながりで昨年から作業している。


越後川流域の恵まれた自然環境を背景に、都心部の再生がこの施設に期待されている。


地域を知れば知るほど仕事の重さを痛感。



3月24日


「五十歩百歩」、多少の違いはあっても本質的には何も変わらないということ(孟子『梁恵王上編』)。


だとすれば「五十歩一歩」という言葉はどうだろう。


百歩-五十歩=五十歩、五十歩-一歩=四十九歩、つまり、百歩≒一歩だよな。


と、埒もないことを、昨日の朝、夢から覚める一歩手前のところでもっともらしく考えていた。


怪しげな理屈はともかく、「五十歩一歩」という言葉だけは、目覚めたあともちょいと気に入ってしまった。




3月23日


イラン出身で、現在は日本に住む美術家、ホセイン・ゴルバさんと会う。


啓子、ゴルバさんのパートナー、フルーティストの段田尚子さんをまじえて阿佐ヶ谷でランチ。


ゴルバさんが主唱する「アジア・フロント」プロジェクトを介して出会い、もう何年になるだろう。


昨年暮れから三ヶ月ほどの入院生活を終え、復調を祝ってのささやかな宴。


食後、中野の哲学堂公園で満開の桜の下を四人で散策。



3月22日


生田萬さんと、来年度のアカデミー授業についての打ち合わせ。


生田さん曰く、「なんか、楽しくてのめり込んじゃうんだよね」。


同感。


育てているという感覚よりは、ともに育つという共生感。


雀百まで┄┄┄┄か。




3月21日


雑誌、「ジャズ批評」の取材。


安田南、沖山秀子について。


疾風怒濤時代を共にした思い出深い、ジャズシンガーと女優。


二人とも、鮮烈な軌跡を残して足早にこの世を去った。


幻の杯をかかげて、乾杯!



3月20日


書斎の片付け。


あわせて、一昨年なくなった母の残した書類整理。


こまごまとした日常のものから、母が受け継いできた家族の履歴にかかわる古いものまで。


春のお彼岸を機会に手をつけはじめる。


長年かけて母自身が整理した痕跡をたどりながら。




3月19日


アカデミーⅣ期生、後期成果発表会。


それぞれまったく傾向の違う三作品。


『マクベス』を素材にした音楽劇、アゴタ・クリストフ『エレベーター』によるパフォーマンス、土田英夫『約三十の嘘』。


上演後のエバリエーションでは、観劇した講師陣からテキストへの取り組み姿勢についての指摘が相次いだ。


「なにを伝えるか」という次の課題が鮮明に。



3月18日


舞台芸術家の島次郎さんと『リア』美術打ち合わせ。


映像の飯名尚人さん、演出助手の鈴木章友くんも同席。


(アカデミー修了上演をのぞいて)舞台芸術家の本格的な起用は、ずいぶん久しぶり(20年? 30年?)。


午前中に打ち合わせをしたメークアップの清水さんを含めて、今回はいつもより厚めのスタッフ編成。


ゆったりと腰を据えてのレパートリーづくりを目指す。



3月17日


秋葉原へ買い物。


老舗のオーディオアウトレット店で、寝室用の小型アンプを購入。


ついでに、レコード針用の掃除液も。


店員はおおむね団塊世代の男性。


ここだけはいつに変わらぬ昔ながらの「電気街」。



3月16日


『ジョルジュ』武豊上演、無事、終了。


知多半島全域で行われている三カ月にわたる「音楽祭」の一環。


250以上のプログラムを、各地域の公共施設、一般の店舗、その他で展開している。


地道だが、同時にスケール感のある取り組み。


第一回目の催しの元締めが、人口四万人の武豊町。



3月15日


愛知県知多半島の武豊へ。


座・高円寺のレパートリー、ピアノと物語『ジョルジュ』旅公演。


一日だけのワンポイント上演だが、こんなことが可能なのも劇場レパートリーという財産のおかげ。


竹下景子さんら出演者とは12月以来、三か月ぶりの再会。


夜、7時過ぎから、会場のゆめたろうホールで通し稽古。



3月14日


吉田健一『シェイクスピア/シェイクスピア詩集』(平凡社ライブラリー)。


深い知識に裏付けされた明快な視点。


歯切れよく、しかも格調のある文章。


何度でも読み返したくなる座右の一冊。


その度に、以前は読み落としていたあたらしい発見が。



3月13日


電子版「確定申告」、ようやく提出。


いろいろややこしいE-TAXも三年目で大分慣れてきたが、認証手続用のカードリーダーとPCとの折り合いが悪く、余計な時間がかかってしまった。


昨日、今日と、劇場デスク、書斎、啓子用と、PC三機を経めぐるはめに。


ほかにも住基カードの三年ごとの更新など、E-TAXはネットでお手軽にという感じではない。


数字を打ち込むだけで、あとはソフトで勝手に計算はたしかに有難くはあるけれども。



3月12日


学芸大学「演劇ゼミ」OB、OG会。


退職して四年、在職中も含めると、もう10年以上、毎年この季節に集まっていることになる。


年によって参加者の顔ぶれも人数も違うが、毎年欠かせない楽しみな年中行事のひとつ。


大学勤めのはじめの年に立ち上げ、退職後、二年で消滅した「演劇ゼミ」への思いは深い。


現在の劇場創造アカデミーは、間違いなくあのゼミの延長線上にある。



3月11日


『リア』準備稿検討会。


渡部美佐子さん、梅本潤さん、田中壮太郎さんの三人の出演者とともに。


すでに手渡してあった準備稿についての疑問、改訂への要望、上演プランの確認などを話し合う。


途中休憩十五分ほどをはさみ三時間半、充実した時間を過ごす。


出演者それぞれのテキストの読み込みに手応えというか、武者震い。



3月10日


永野むつみさんが主宰する指人形劇団ひぽぽたあむを見に、国立へ。


去年知り合った永野さんの個性にひかれての観劇だったが大いに満足。


演出、演技、そして美術、そのひとつひとつへの丁寧であたたかな取り組みが伝わってくる。


子どもたちの反応を観察などの野暮な思惑を忘れて、45分間小さな舞台にひたすら見入ってしまった。


帰りに国立散歩、街道沿いの風情のある蕎麦屋に寄り道。



3月9日


一昨年亡くなった末弟の三回忌法要。


兄弟の家族だけでの静かな集まり。


三十代からはごく近くで一緒に仕事をしてきたが、かわした言葉は多くはなかった。


高齢の母の世話など、頑固でひたむきな様子をいじらしく思い出す。


合掌。




3月8日


10月末からの鴎座上演のワークインプログレス。


今回の鴎座は、男女のソロパフォーマンス二作の上演。


膨大なせりふと完全な沈黙と。


テキストは、ベルナール=マリ・コルテスとサミュエル・ベケット。


これから半年、息の長い作業になる。



3月7日


オーストラリアの演出家オブリー・メロー、来訪。


メル・ギブソンなとを輩出して有名な演劇学校NIDAの校長を長らくつとめ、現在はシンガポールの演劇学校の校長。


イギリス演劇主流のオーストラリア劇界にあって、自国劇作家との作業を精力的におこなった演出家としても知られている。


アジア各国に散在する、同世代の広義の「小劇場運動」仲間のひとり。


去年、シンガポールでの『霊戯』上演についてのうれしい批評をもらう。



3月6日


夕方、新宿で啓子と待ち合わせ。


食事のあと末廣亭へ。


中入り前から、夜席の番組を三分の二ほど。


トリの栄馬(紺屋高尾)のほか、講談の松鯉(道灌)、茶楽(子は鎹)、花助(やかん舐め)、膝がわりのボンボンブラザースと、そぞれに肩の力を抜いた寄席らしい「軽み」の芸を楽しむ。


古風に徹した栄馬の高座所作(湯飲み、手拭いのあつかいなど)がきれいだった。



3月5日


今年、劇場創造アカデミーを修了したⅢ期生の進路相談面接。


修了上演以来、ほぼ二週間ぶりに顔をあわせたひとりひとりの落ちついた雰囲気が印象的。


二年間の研修期間中、しばしば指摘されていた「おとなしさ」が寡黙な「自信」や「確信」にいつの間にか窯変したよう。


これが本物であればとてもうれしい。


地域の公共劇場への就職をはじめ、俳優事務所との面接など、次のステップへの動きも確実にはじまっている。



3月4日


終日、劇場事務所。


夕方、佐伯隆幸、来訪。


待望の訳書『コルテス選集2』を贈られる。


『タバタバ』『西埠頭』を掲載。


うれしい!



3月3日


雛祭り。


先週の伊丹に引きつづき、劇場創造アカデミーⅤ期生、入所試験。


カリキュラムディレクターの、生田萬さん、木野花さんとともに、演技、演出、劇場環境コース14名の面接と実技(演技)、スピーチ(演出、劇場環境)に立ち会う。


その後、ひとり残り、講義のみ受講者の6人を面接。


「選ぶ」というよりは「発見する」という集中を必要とする作業に、疲労感、いささか。



3月2日


昨夜の大風(春二番?)のせいか、日差しはすっかり春の気配。


脚本書きから解放されて、体と頭の緊張がちょいとゆるむ。


たまっていた名刺の整理など、書斎まわりの雑用の片付け。


あと、確定申告の準備作業とか。


名刺、領収書、源泉票など、小さな紙切れ相手の半日を過ごす。



3月1日


『リア』宣伝用写真撮影。


恵比寿の写真スタジオに、渡部美佐子さん、植本潤さん、田中壮太郎さんと出演者全員が揃う。


デザイナー以下、カメラマン、スタイリスト、メーク、CG技術者、それぞれの助手など、ジャンルの違うプロ集団の仕事ぶりを、スタジオ二階につづく階段から観察。


劇場の制作担当や広報の動きも無駄なく、気持ちがいい。


初対面にもかかわらずリラックスした出演者の雰囲気を、さて、稽古場までどのように持ち込もうか。