4月30日
『リア』、昨日仕込んだセットを使った稽古が始まる。
具体的になった空間イメージに俳優たちの演技が弾む。
出演者三人とも、こちらからことさら伝えなくても、「いま、そこに起こっていることを見逃さない」即興演技を基本としている。
演技スタイルは異なっていても、「演劇観」の共有がたしかにある。
訳者の小田島雄志さん、稽古見学に来訪。
4月29日
『リア』、稽古場仕込み。
上演用の舞台をそのまま稽古場に飾る。
これから二週間、贅沢な環境での稽古。
これまでつくったことのない舞台になりそうな予感。
とらわれず、見逃さず、あきらめず。
4月28日
この国の首相、副首相が愚かであるかどうかはわからない。
しかし、言動から類推するかぎり、読書をはじめとする教養はお粗末なものだろう。
そんな彼らが得意気に吹聴するのがweb(首相)とマンガ(副首相)。
彼らが依拠するwebとは「ニコニコ動画」(小沢一郎もそうだった)、、マンガとは「ゴルゴ13」(もしかしたら、「社長島耕作」も?)だ。
この国の現在、うそ寒くもまぎれもない現実。
4月27日
五年目を迎えた、高円寺びっくり大道芸初日。
今年のテーマは「沸騰」。
九時過ぎから座・高円寺2で、二百人近くのボランティアスタッフとの開会セレモニーに参加。
座・高円寺1には、劇場スタッフが一週間あまり取り組んできた「リトル高円寺」の不思議の森が出来上がって、子どもたちの到着を待っている。
劇場が、劇場らしくうれしそうに息づいている。
4月26日
『リア』、稽古佳境。
俳優三人が演じる役、ひとりひとりの骨格が明瞭になりはじめている。
登場人物が三人ならば゛、テキストが描き出す物語も三様。
三人の関係性がはっきりするに従って、三つの物語はさらに異なった方向に発展していくはずだ。
物語を最後にひとつにまとめるのは、演出家ではなく観客席。
4月25日
呉智英『吉本隆明という「共同幻想」』(筑摩書房)。
難解な「吉本節」を肴にした著者の日本語訳ににやり。
若いころから吉本は小林秀雄とならんで、苦手のひとりだったが、こうして回顧されると、語彙(吉本造語を含む)や文体には、結構、影響されていたのに驚く。
皮肉にいえば、真似のしやすい「詩人」ではあったのかも知れない。
翻訳調言語の生硬さを含めて。
4月24日
『リア』稽古にあわせて、今日からアカデミーの授業が始まった。
前期の担当は、Ⅴ期生の「演技基礎Ⅰ」とⅣ期生俳優コースの「演技ゼミ」。
まずは新入生のⅤ期生から。
配布したテキスト朗読に率先して挑んだ四人の初々しい緊張感。
自分を含めて、絶対に忘れてはいけない感覚だと思う。
4月23日
『リア』立ち稽古。
昨夜構成した仮音はおおむねうまくはまたようだ。
いつものことだが、稽古進行にあわせて、もとのテキストを読んだだけでは思いもよらないような場面が立ち上がってくる。
自作テキストだと、その違いがいっそう鮮明に理解できる。
この時期、初期プランの変更と修正への美佐子さんたち俳優の根気のいい協働は、とてもありがたい。
4月22日
『リア』稽古、休み。
自宅で確定申告の修正など、事務作業いろいろ。
夕方から『リア』の音響プラン。
候補曲の選曲をしながら、懸案だったCD棚の片づけも。
気がつけば、更夜。
4月21日
『リア』稽古、中心となる第三場の集中稽古。
今日一日で、美佐子さんを中心に芝居の核心が一気に立ち上がったような気がする。
明日の休日を前に、稽古修了後、メインプランのメモを見ながら、この芝居のそもそもの上演意図について少し話す。
理性的であろうとすることの限界。
「恐れ」や「怒り」や「悲しみ」の果ての「狂気」を。
4月20日
ボストン爆弾事件の犯人逮捕。
衝撃的な生放送から一日たつが、事件の真相はいまひとつ不分明。
犯行はチェチェン出身の若い兄弟と伝えられ、兄は死亡、弟は銃撃戦で重症とか。
かつての9.11で首謀者と目されたビン・ラビンは、結局、アメリカに追い詰められ、殺されてしまった。
最後の始末は、いつだって、体のいい暗殺か。
4月19日
座・高円寺劇場創造アカデミーⅤ期生、開講式。
劇場スタッフ、一年先輩のⅣ期生、そしてカリキュラムディレクターの生田萬さん、小生、劇場スタッフと六十人ほどが、代わる代わるに自己紹介。
新研修生たちのとまどいと緊張が、毎年、新鮮な刺激。
対するⅣ期生は明るく、リラックス。
この期は受講当初から、集団作業に長けている。
4月18日
凝縮された美佐子さんの芝居づくり、植本潤さんの着実な積み上げ、田中壮太郎さんの力まない率直さ。
時間は短いが集中ある『リア』の稽古場。
セットアップはともかく、個人的には終わってからのクールダウンに思わぬ時間がかかる。
酒も飲まず、稽古後の付き合いもほとんどしない。
ただひたすら事務所のデスクに向かい、埒もないよしなしごと。
4月17日
時間の隙間の楽しみはユーチューブ落語。
お目当ては志ん朝、米朝、あと枝雀。
聞いていると、それぞれ年代による芸風の変化が興味深い。
若い志ん朝が演じる『大工調べ』の啖呵の小気味よさ。
絶頂期枝雀、『貧乏神』のしみ入るような笑いの感覚。
4月16日
『リア』稽古前のプランナー打ち合わせ、今日は衣装の岸井克己さんと。
デザイン画と大きな鞄に詰め込まれた大量の素材とともに颯爽と登場。
目の前に次々に広げられる美しく個性的な布地。
普段、自分の衣類の買い物はいつも十分以内。
芝居ならではの贅沢な時間を過ごす。
4月15日
暖かな日差しにめぐまれた一日。
『リア』の稽古は休み。
下井草の啓子スタジオで10月末の鴎座上演の打ち合わせのあと、劇場へ。
九州本拠の橘劇団総座長来館。
今年度スタートを考えている新企画について、劇場スタッフをまじえての 話し合い。
4月14日
模型舞台写真を元にしたイメージコンテを映像の飯名尚人さんから受け取る。
幻想的なコンテを見ながら、午前中、稽古用の音選び。
午後、手持ちのCD数枚を稽古場に持ち込み、一場、二場の場面づくり。
いくつかの可能性を試しながら、大筋の組立についての感触を得る。
約一カ月間の稽古進行について、ようやく目処がついた。
4月13日
『リア』美術打ち合わせ。
プランナー島次郎さん製作の模型を真中に細部の最終調整。
原テキストの一種壮大な「世界」をコンパクトな劇場にどのように実現するか。
打ち合わせ当初のイメージ、アイディアから、根気よく、丁寧なやりとりを積み重ねる島さんの仕事スタイルに納得。
さあ、次は演出プランをさらに一歩。
4月12日
『リア』、本格稽古開始。
美佐子さん、植本さんはほとんどせりふが入り、いきなり半立ち状態に。
あわててアクセルを踏まずに、いましばらくの慣らし運転を提案。
帰宅後、霍建起監督『故郷の香り』をDVDで。
幻想の故郷を描く巧妙にして達者な絵づくり。
4月11日
気温はあまり高くはないが、あたらしい季節を感じる明るい一日。
日差しのぬくもりの中を、自転車で劇場へ。
電動アシストつきで、約四十分の行程。
青梅街道、日大二高通り、早稲田通りと、それぞれまったく表情の違う町並みを通り抜けながら思案あれこれ。
明日から本格稽古のはじまる『リア』については、あえて脇において。
4月10日
休養日。
端午の節句の飾り物。
母が生前、丹念に修理しながら毎年飾っていた満身創痍の鎧。
敗戦間近の物のない時代に苦労して手に入れたものという。
自分の年齢と世間の時の流れとが、ふと重なり合って身に沁みる。
4月9日
福岡発、最終便で帰京。
深夜間近の空港は、人影も少なくひっそり。
そのせいか、旅帰りというよりは、はるばる空路で運ばれてきた貨物の気分。
モノレールも今夜は、どんぴしゃり、高架トロッコの風情。
この殺伐感、嫌いではない。
4月8日
久留米のクラブ。
めったに足を踏み入れない、というか、生まれてから三度か、四度目の場所。
一時間ほどの宴の締めは、ひとり一曲のカラオケタイム。
さて困ったと思案の挙げ句、林光さん作曲の『舟歌』をアカペラで。
周囲はしーん┄┄┄よっし!
4月7日
夕方から、久留米へ。
明日から二日間は、例のごとく終日ミーティング漬け。
道中、志ん朝長講三席を聞く。
『坊主の遊び』『崇徳院』『夢金』。
のびやかな語り口がなんとも心地いい。
4月6日
午後から「嵐」の天気予報。
「できれば外出は控えて」など、ものものしいコメンつき。
昼過ぎに所要の買い物をすませ、あとは終日、自宅。
檀上寛『永楽帝-華夷秩序の完成』(講談社学術文庫)。
中華「世界システム」の過去に学ぶ。
4月5日
『リア』、顔合わせ。
翻訳の小田島雄志さんはじめプランナー全員と劇場スタッフの顔が揃い壮観。
開場五年目、レパートリーのある劇場へのささやかだか着実な歩みがまた一歩。
出演者を中心に「つくる」スタッフと「生み、育てる」スタッフとの綿密な協働。
当たり前のことが当たり前のように始動しはじめた意義は大きい。
4月4日
稽古前、近所の総合病院へ。
血液検査その他、三ヶ月に一度の定期検査。
朝、九時から十二時半まで。
大動脈乖離発作から、早や四年目の春。
血圧コントロールの薬だけは手放せないものの、体との折り合いはまずまずなんとか。
4月3日
『リア』稽古始まる。
三日間は読み合わせをしながら上演テキストの確定作業。
出演者三人が、それぞれあらかじめ整理しなおした言葉の言い回しを確認。
今日一日だけで、ひとりひとりの表現の個性と、テキスト読みの輪郭が大分はっきりとした。
見かけはコンパクトだが、何か途方もないスケールの冒険旅行に足を踏み入れた予感。
4月2日
昨夜は、座・高円寺の25年度企画発表日。
別役実さんをはじめ上演予定作品の劇作家、演出家が顔を揃え自作についてそれぞれコメント。
聞き手にはジャーナリストをはじめ、評論家、地元の方々、若い演劇ファンなど多彩な顔ぶれが集う。
五年目の今年、参加者は八十人をこえる盛況。
間もなく研修がはじまる劇場創造アカデミーⅤ期生の新鮮な顔もちらほら。
4月1日
エイプリルフール。
FBにも狙いの書き込みがチラホラ。
中で目についたのが、劇作家の坂手洋二さんはじめ何人かの日本脱出ネタ。
いずれも、本来は「脱出」よりも「残留」徹底抗戦派とおぼしき人びとによる切実な息抜き。
微苦笑しながら、「暗澹」を共有。