11月30日
11月末日。
このひと月はほんとうに「あっ」という間に飛び去って行ってしまった。
月末の南京行きまで、まだまだ濃密な日がつづく。
一日中書斎でPCに向き合い、過去の劇場づくりの振り返り。
必要あっての作業だったが、世田谷パブリックシアターから座・高円寺への転換の意味がようやくすっきり整理できた。
11月29日
アカデミー修了上演、舞台美術打ち合わせ。
美術の島次郎さん、共同演出の生田萬さんと。
今回の上演は三部作一挙上演ということもあって、これまでの三年間の集大成というよりは、これからの長いプロセスの第一歩となるような、ベーシックな発想の転換を期している。
なにはともあれ、まずその思いの丈を二人に伝える。
慎重な島さん、吟味の厳しい生田さんのリアクションや如何。
11月28日
『林光 〈うた〉のカバレット』稽古。
稽古中、出演者の竹田恵子がふと呟いたひと言。
「光さんは、いつもニコニコしていたわけじゃない。いつもとても怒っていた」。
わかる。
深くうなずく。
11月27日
このところ会わなかった友人ふたりと座・高円寺で会う。
林隆三さんと清水宏さん。
ふたりともぼんやりとした仕事絡みといえばいえなくはないが、それを離れての会話が弾む。
いってみれば、劇場という棲家での縁側のひととき。
夜は「出会いのフォーラム」(毎年夏におこなわれている、児童演劇を中心にした大きな集まり)の懇談会に出席。
11月26日
ニッセイバックステージ賞授賞式。
受賞者のひとり、舞台監督の金一浩司さんは古い知り合い。
というより、黒テント発足時の恩人のひとり(十日間におよぶ、大阪公演のプロデューサー)。
会うなり「おめでとうございます」を伝える間もなく、「マコト、太ったな。お前は太ったらあかん」と、一発ガツン。
式後、同じく出席していた黒テントの仲間、服部吉次と銀座風月堂(その昔、服部の父上良一さんの事務所が同じビルの二階にあったという)でお茶。
11月25日
アカデミー、身体表現の発表会。
ソロとデュオ、トリオ取り混ぜて、それぞれ十分ほどの七作品。
思い切りの緊張感の向こう側に垣間見えてくる、個性というか思いの丈の違いが興味深い。
自分では、まだその本質が見抜けていない「個性」。
その発見が「独創」への転換のきっかけ。
11月24日
自宅で原稿書き。
途中、息抜きに荻窪へ出てキャンドゥーへ。
人、人、人の賑わいの中、机周囲の小物整理用小袋を探す。
びっしり並んだ100円均一商品棚の間を抜けるうちに、手にした籠の中には、いつ間にか、用、不用取り混ぜていろいろ。
無事目当てに行き当たったあと、さらにもう一周、不用品を棚に返してまわるのも毎度の愚行。
11月23日
啓子甥の結婚祝いの食事会。
中野サンプラザの20階。
秋の光のまぶしい部屋に親戚十三人(うち、小さな子ども二人)が集い和気藹々。
食事後、啓子とわかれ劇場へ。
事務仕事いくつか。
11月22日
アカデミーⅤ期生の後期成果発表のプレゼン。
初期的なかたちではあるものの、演劇や劇場の本質に手の届きそうな「思考」がいくつか。
終わって、荻窪の杉並公会堂リハ室に移動。
12月の竹田恵子コンサートの初稽古。
ピアノの寺島陸也さん、テノールの岡本泰寛さん、舞台監督の中村真理さんと、見知った懐かしい顔が揃う。
11月21日
朝から劇場。
会議二件、面会二件、アカデミーの授業、来年度募集の説明会。
劇場という生きものとの日々。
庭師のように、主治医のように、ある時は機嫌を取り結ぶ道化のように。
劇場は時にひどく気難しい雇い主でもある。
11月20日
黒テントアクターズワークショップ。
三回の「演技基礎」講習の最終日。
六人の受講者たちののびやかな感性に支えられて、気持ちよくシラバスを進めることが出来た。
終わって、先日「鴎座」上演を手伝ってもらったメンバーを中心に、黒テントの八人ほどと稽古場近くのハンバーガーインで食事会。
二次会をふくめて、久しぶりにじっくりと劇団の今後について話し込む。
11月19日
「転機」の予感。
はっきりと言葉に出来ないし、何かイメージを思い浮かべているわけでもない。
はなはだぼんやりとした、しかし確実な予感。
いや、願望かも知れない。
地図のない旅、いまだなかば。
11月18日
午前中、久留米市都心部再開発組合工区の起工式。
午後は役所でミーティング。
夜、六門ほとめき商店街の会長主催の「夜噺」の茶席。
7時から11時の四時間におよぶ本格的茶席を初体験。
和蝋燭のゆらめく炎と水音、炭のはぜる音に彩られた静謐な時にこころ和む。
11月17日
久留米市。
世田谷パブリックシアター、座・高円寺で「大道芸フェス」の立ち上げを担った橋本プロデューサーを久留米市に紹介。
橋本さんが大道芸に係わるようになった経緯、大道芸に託す思いなど、ぼく自身もはじめて聞く話をいろいろ。
橋本さんの語り口、背景にある経験や知識の豊富さの魅力。
「あたらしい何か」をはじめるためのこころづよい協同者を確認する。
11月16日
終日、自宅作業。
書斎で確定申告用の領収書整理、その他。
途中、一階のリビングに下りて、時々餌をもらいに訪ねてくる野良猫(本物の猫)「呂々」と小半時。
寒さのせいか、最近、餌を食べ終わってもしばし部屋に滞在して丸くなっている。
ただし、彼我の最接近距離は30センチ迄。
11月15日
黒テント、アクターズワークショップへ。
四人の受講生と二時間半。
その昔、黒テントで「赤い教室」なる演劇塾を企画したとき、「生徒1」と「生徒2」の出会いの場という構想を掲げたのを思い出す。
「生徒1」はいわゆる生徒で、「生徒2」の方はふつう講師とかファシリテーターと呼ばれている存在。
学芸大のときもそうだったが、「教え」の体裁をとった「学び」の経験はいつだって強烈。
11月14日
久しぶりの劇場。
会議、打ち合わせ、アカデミーの授業。
合間に、一昨日に引き続いてこれから来年三月、年度末までの劇場がらみのスケジュールの確認と整理。
うん、これはちょっと大変かも、と気づいたときはすでに時遅し。
歯車はすでに大きな音をたててまわりはじめている。
11月13日
田人第二小学校での『ピン・ポン』上演。
客席の後方で子どもたちと一緒に観劇。
思い返すと、はじまりは十年前の沖縄キジムナーフェスタとの偶然のような出会い。
以来、毎年のように彼の地を訪れながら、こどもたちとたくさんの経験をともにしてきた。
一時間足らずの上演のなかに、そのすべての軌跡がつめこまれている。
11月12日
座・高円寺『ピン・ポン』の学校公演に同行。
いわき市田人、山村の今年廃校になる小学校で仕込み。
現在、在校生五人。
地元の杉材をつかった木造の校舎、体育館が美しい。
舞台監督鈴木くんの「燃える」という言葉にうなづく。
11月11日
消化活動三日目。
書斎のテーブル周辺の書類整理。
並行してとり散らかった脳内倉庫の片づけも。
要するに時系列にそった並べ替えをしているだけなのだが。
終わって、目の前に(および脳内倉庫に)具体的に積み上げられた今年から来年にかけての作業量にあらためてため息。
11月10日
尻の消火活動、二日目。
助成金申請の書類書き。
一から十まで自分の手でというのは、二十年ぶりくらいになるんではなかろうか。
数字の他にいろいろ言葉も書かなければならず、確定申告よりはちょっと手間がかかる。
夕食前にかたをつけ、食後は昨夜の原稿の手直しを少々。
11月9日
「鴎座」にかかりっきりになっていた間にたまっていたもろもろを、とりあえず書き出したメモをつくる。
尻に火がついている五件。
そのうち、いまやボーボー燃え上がっている原稿書きから手をつける。
完徹。
朝日の気配を窓の外に感じながら、とにもかくにも脱稿。
11月8日
『ピン・ポン』、オーディション。
29人の応募者と四時間。
協同者の啓子、ツペラツペラの亀山、中川さんと共に六人の候補者を決める。
それぞれにまったく違った個性の持ち主。
一月におこなう予定の絞りこみの二次審査は如何なる次第に?
11月7日
午後から外出。
五島記念文化財団のオペラ新人賞の選考会。
今日はスタッフ部門の応募者との面接。
すでにそれなりに経験を積んだ三十代の応募者たちの真剣さがひしひしと伝わってくる。
終わって、『ピン・ポン』旅公演帰りの啓子と浅草で落ち合い食事。
11月6日
江戸川橋、黒テント稽古場へ。
今週、来週、再来週の三回、アクターズワークショップの講師役。
五人の受講生とともに二時間半。
演技基礎三題、せりふ覚え、相手役演技の受信、即興。
すべての体感的基礎となる「鏡のエチュード」から。
11月5日
自宅で「鴎座」の制作残務。
各セクションから集まってきた領収書を、項目別に一枚ずつPCの帳簿に打ち込んでいく。
合間に、請求書の依頼などメールのやりとりいくつか。
制作業務にここまで手を伸ばしたのは30年ぶりか。
「そうだった。こういうことだ。ここから始まったんだ」と、感慨多々。
11月4日
時代は停滞期ではない。
変革期でも、もちろん創世期でもない。
強いて言うなら、崩壊期か。
あらゆる延命の手だては、究極、すべて失敗に期するだろう。
ゆえにこそ、絶望ではなく希望を構想し、語りあわなければならない。
11月3日
「鴎座」第Ⅱ期上演活動4、千穐楽。
心配した入りも低空飛行ながら見た目なんとかしのぎ、気持ちよく打ち上げ。
キャスト、スタッフ15人が高円寺の「肴や 小兵衛」に集合。
うまい料理、うまい酒(笛田さん!)を囲み和やかなひとときを過ごす。
自分にとって大切な演劇的なひと区切りを達成できた満足感、しみじみ。
11月2日
七年目にしてようやく、「鴎座」第Ⅱ期上演活動発足当初にで目指したweb劇団の片鱗がつかめたような気がする。
何よりもの実感は、実際に劇場に足を運んで下さった人びとからの素早いレスポンス。
上演直後に、これだけ真摯な言葉の花束を贈られたのははじめての経験。
「鴎座」の次のステップへの手がかり、足がかりがここにある。
あたたかい励ましに喜んでいるだけではなく、さらに文意の深いところまでに目をこらさないと。
11月1日
「鴎座」第Ⅱ期上演活動、終了まであと三日。
まるで自由劇場旗揚げ当時のように、上演以外にはなににも手がつかず頭がまわらない二週間を過ごしている。
三日の打ち上げ後、正気に戻った時、いったい何が待ち受けているのか。
目が覚めて正気に戻るのか。
それともこのまま夢の中か。