1.太平洋戦争敗戦の二年前、一九四三年(昭和十八年)八月二十三日、東京(新宿区諏訪町)に生まれる。疎開先の静岡県伊東の家で、空襲警報が鳴って、押し入れの中に隠れた記憶が鮮明に残っている。襖の隙間から覗くと、明るい日差しの縁側に、ひとり碁盤に向かう祖父の姿が見えた。やっとよちよち歩きが出来るか出来ない...
佐藤信
個人劇団鴎座 主宰
劇団黒テント 演出部
若葉町ウォーフ 代表
十八歳の時、はじめて芝居の脚本を書いた。それから半世紀はとうに越えた。
いまでも、三年間に二本くらの割合であたらしい脚本を書いている。
けれども、それだけではたして自分を劇作家と呼べるかものかどうか。
どこかこころもとないところがある。
参加資格を躊躇して「劇作家協会」には加わらなかった。
舞台の演出は平均すれば年に四、五本になる。
演劇ばかりではなく、オペラやダンスや結城座の人形芝居や、その他いろいろ。
劇場のような場所で演じられるものという程度で、ジャンルの区別はあまり気にしない。
もっともこちらの方も、「なりわい」としての自覚にはほど遠い。
「演出家協会」にも参加していない。
脚本を読んだり書いたり、舞台を観たり演出したり。
「好きだ」とは断言出来ないが、「面白いよ」とは即答出来る。
とりあえず、確実なこと。
半ば「確信犯」としての不心得者のせいで、いまだに芝居の脚本書きや演出だけでは食べてはいけない。
稼ぎ仕事はいつだって、当てにならない風まかせ。ハイホー。