時の函
竹屋啓子と板東三太映のための舞踊詩



一、 封じる

つつましい日々のために
あからさまな「今日」を封じる
あかりを消して夜を招く

夢見る誘いから身をそらし
なつかしい「明日」を封じる
おぼろの月に微笑みを返して

あふれるいのちの吐息をついて
見過ごした「昨日」を封じる
手を洗い 口をすすぐ

時を封じた女たちよ
千年のためらいのかたち
とりどりの函に託して

二、 運ぶ

函を運ぶ
託された者の名を知らず
託すべき者の名も知らず

函に聞く
思いを届ける言葉を知らず
思いにこたえる言葉も知らず

函と歩む
足跡の始まりを知らず
足跡の行方も知らず


三、覗く

なんて きれいなんだ
なんて かわいいんだ
なんて ふしぎなんだ
なんて ちいさいんだ
なんて しずかなんだ
なんて おかしいんだ
なんて おろかなんだ
なんて かなしいんだ
なんて まじめなんだ
なんて いとしいんだ
なんて けなげなんだ
なんて はかないんだ

四、開く

函をひらくと
花の香り
金木犀の
あの小道

函をひらくと
波の音
貝殻拾った
あの浜辺

函をひらくと
草の露
蛍狩りした
あの夜長

函をひらくと
風が吹く
落ち葉を踏んだ
あの林

あのひとは だれ
あのひとは おかあさん

五、放つ

時よ
女たちの千年よ

千の函から
千の時を放て

喜びは喜びのままに
悲しみは悲しみのままに

小さな物語は結ばれて
空の織物になればいい

歌われなかったうたは光になり
遠い星々に伝わればいい

時よ
女たちの千年よ

放たれたあともここにとどまり
ゆたかなめぐみを地にみたせ


(平成19年1月8日 井草)

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