五柳五酒
三善 晃 作曲/男性歌曲版 混成合唱曲版



 
先生はどこの馬の骨だかさっぱりわからない。姓名不詳。それでもって、家のそばに柳の木が五本あったもんだから、それをそのまま号にした。五柳先生。物静かで口数少なく、出世と金儲けにはとんと縁なし。読書は好きだけど、とことん意味の詮索はしない。でも、 読んでいて気に入ったとこがあると、嬉しくなって、ご飯を食べるのも忘れて夢中になっちゃう。生まれついての酒好き。でも、いつも飲めるわけじゃない。親戚とか、古い友だちとか、事情をよく心得てるから、時どき酒席をもうけて先生をご招待する。遠慮なく出かけて行って、出された酒はどんどん飲んじゃう。酔っぱらったらさっさと失礼して、未練はない。住まいはあばら家、お陽さまはかんかん、風はびゆうびゆう。着物はおんぼろ、穴だらけ、皺だらけ。米檀はしばしば空っぼ。だけど、一向に平気ね。詩とか文とかつくつて楽しみ、言いたいこともいささか主張して、損得勘定をすっかり忘れて、かくて、ひとり一生を終える次第である。


その一


今日はほんとにいい天気
笛と琴との調べを合わせ
生きてるうちが花なのよ
嬉しくなるのはあたり前

うたは清らか新しく
故郷の酒に頬をゆるめ
明日は明日の風が吹く
今日の思いはこれでいい

(諸人共遊周家墓柏下)


その二

いのち つきる いつか
とわの さだめ かたし
ふし(不死)の うじん(羽人) あれば
いまは どこに おわす

おきな さけを おくり
のめば ぼくも うじん
うきよ なべて とおく
やがて てんも わすれ

てんは ここに ちかく
ぼくは ぼくの みちを
つるの はねの ふしぎ
ちょっと てんを めぐる

ぼくは ぼくに うまれ
はげみ よわい かさね
おいた からだ いだき
こころ あれば たのし

(連雨獨酒)


その三

秋の日の菊の花
その色の目にしみて
露に濡れ 房をつむ
憂いを忘るる 妙なる薬
花を浮かべ ひとり 飲む
盃を返す人なく 酌するもわれひとり
夕暮れに 静まる景色
鳥は泣き 森へ 塒へ
浮世をはなれて 東の方へ
とにもかくにも 安らぎの棲家

(飲酒 其三)


その四

町に住むのはやめにして
ぶらりのどかに暮らすのさ
座る場所なら木の陰で
歩くところは庭のうち
畑の青菜がご馳走で
子供と遊べば満足さ

いままで酒を飲んだのは
他に楽しみ無いからだ
夜に飲まなきや眠れない
朝に飲まなきや起きられず
毎日 反省したけれど
飲めば元気が出るからな
やめても得などありやしない

だけどはじめて覚ったよ
今朝をかぎりにもうやめた
今日から絶対飲まないぞ
この世の果てに行く覚悟
二度と見せない赤い顔
千万年も もののかわ

(止酒)


その五


相住みの 男 ふたリ
似た者同志にほど遠く

ひとりはいつも酔い
ひとりはいつも醒め

酔ったの酔わないのとげらげら
飲むの飲まないのとわいわい

あきれ顔の奴は間抜け
威張り顔の奴は少し利口

酔っぱらい殿に申し上げる
日が暮れたら灯(あかり)をともして飲めよ

(飲酒 其十三)

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