10月31日

終日、自宅。

旅装の片づけ、書斎の整理など。

合間に物置からガスストーブを引っ張りだして冬支度。

設置した三部屋での、ためし炊きをそのままにしてもおかしくないような冷え込み。

常夏のシンガポールの日差しが夢のよう。


10月30日

十日ぶりの劇場。

たまっていた仕事の片づけ、というよりは片づけための準備作業。

書類を整理し、例によって作業手順のメモ書き。

考えなければならないこと、手を動かして書かなければならないこと、いろいろ。

うーん、年末二ヶ月も濃厚な日々がつづきそうな。 


10月29日

早朝六時、ホテルロビー集合で帰国。

帰りの機内は、ひたすら爆睡。

ただし、機内食二食はしっかりゲット。

今回の上演をきっかけに、新しい世代の「交流」が始まるのをこころから期待。

機運はある┄┄あとは実行、なんだけど。


10月28日

『霊戯』シンガポール上演、千穐楽。

マチネの上演に先立ち、ダニー・ユン、出演者の笛田さん、松島さんとともにシンポジウム。

100人ほどの観客からも熱心な質問があり、内容のある討論になったと思う。

上演後、主催者実践劇場のスタジオで、アットホームな雰囲気の打ち上げ。

終わって、宝崑の長女、践紅さんの案内で、一同、シンガポールの夜の巷を見学。


10月27日

西川長夫『増補 国境の超え方 国民国家論序説』(平凡社ライブラリー)。

初読、というかこれまでこの本の存在すら知らなかった不明を恥じる。

すでに90年代初頭に発表されていた西川さんの論考に、当時、出会っていたら、それ以後の20年間はおそらく全く別なものになっていたに違いない。

ある意味で80年代からの東南アジアとの交流の総決算となるシンガポールの地で、この本を読み終わったことにことさらの感慨。

そうなんだ、自分はこのように考え、このように言いたかった┄┄それを探し求めるための長い回り道。


10月26日

シンガポール上演、二日目。

昨夜に比べると若い人の姿が目立つ客席。

上演への反応もよく、肩の力がふっと抜ける。

昼間は国立博物館で開催中の「郭宝崑展」を見に行く。

宝崑演出の『霊戯』のVTRを見られたのがうれしかった。


10月25日

『The Spilits Play 霊戯』シンガポール上演、初日。

開場前のカクテルパーティなど、華やかな雰囲気。

上演内容は自分では満足できるものだったが、第二部(ダニー・ユン演出)を含めて、観客の反応はどちらかというと冷淡。

明らかに、作品様式や内容へのとまどいがあるよう。
はが隠せない。

あと三日、今回の企画を消化不良に終わらせないためには何が必要か。


10月24日

明日の初日を前に、日本チームのスタッフ、キャスト全員で郭宝崑の墓参り。

シンガポール最大の仏教寺院。

床から天井まで、遺骨を納められたロッカーのような棚が隙間なく並ぶ納骨堂。

想像した墓地とは大分様子が違うが、いかにも宝崑らしい大勢の人と共にある、気取らず、親しみやすい雰囲気がいい。

同じ段の棚に、彼の活動を援助し続けたファンデーションの創始者が並んでいるのも不思議な縁とか。

亡くなって十年目、遅くなってしまった墓参だが、『霊戯』プロダクションとともにやって来られたのが僥倖。


10月23日

高文謙『周恩来秘録』(上村幸治 訳/文春文庫)、上下二巻読了。

著者は員元党中央文献研究所所員。

「史書の国」中国の面目躍如たる内容に圧倒される。

周恩来、毛沢東の死の間隔がもしも一年以上離れていたら。

詮ない想像とは知りながら、もしも┄┄マルクス主義と中国との出会いの帰趨はどのような結末に。


10月22日

ホテル近所の食堂で、焼きそばと目玉焼き、甘いミルクティーの朝食。

明日からの稽古段取りを整理したあと、ひとり、地下鉄に乗って町歩きに出る。

四年ぶりのシンガポール。

これまで行ったことのない北東部を散策。

三時過ぎ、制作からの電話で、仕込み中の劇場へ大急ぎ。(反省!)


10月21日

成田から六時間余、現地時間5時過ぎにシンガポール着。

ホテルで、主催者実践劇場の林さんの出迎えを受ける。

その他、香港政府の経済貿易弁事處の高さんも。

高さんは今回の企画の香港側スポンサー。

日本組は、荷ほどきのあと、ホテル近くの店でシンガポール名物チキンライスを囲む。


10月20日

明日からのシンガポール行きを前に、自宅、劇場事務所で事務仕事を整理。

すべて完了とはいかず、スーツケースの中に宿題書類をいくつか忍ばせる。

いままでの経験で、向こうへ行けば、まず手にとらないのはわかってはいるのだけれど。

郭宝崑没後十年、不思議な縁の導きでの『霊戯』シンガポール上演。

さて、どんな九日間が待ち受けているか?


10月19日

愛知県立安城養護学校(愛知県安城市)での『ピン・ポン』上演。

全国有数の大規模養護学校。

高校から小学校まで、約四百人が在席。

そのうち小、中二百人が観劇。

上演前、校長先生の案内で、校内を参観。 


10月18日

『ピン・ポン』、今日の上演は名古屋市守山区の名進研小学校。

JR大曽根駅から小幡緑地まで、ゆとりーとラインに初乗車。

両側にガイドをつけた高架道路を、車両の両側にローラーをつけたバスが走る。

なまほどね、といった感じのローコスト都市交通

ハンドル操作のない運転士はちょっと手持ち無沙汰な様子。


10月17日

今日から三日間、10月7日から旅公演中の『ピン・ポン』チームに同行する。

名古屋市立相生小学校体育館。

厳しい舞台条件下、キャスト、スタッフともども手慣れた作業で、設営、上演。

全校生徒150人ほどが観劇。

いつもと変わらない子どもたちの反応がうれしい。


10月16日

久留米から名古屋へ移動。

待望の九州新幹線さくらで新大阪まで。

グリーン車そこのけの四列編成のゆったりとしたシート。

秋の九州から山陽道。

景色とともに、午後から夕暮れへの光の変化がご馳走。


10月15日

一カ月ぶりの久留米。

ひとり、いつものごぼう天饂飩で昼食。

13時-21時、ミーティング二件のあと、これまたいつものジャズ喫茶モダンへ。

マスター手作りのハンバーグで、遅い夕食。

月がわりで壁に飾られているミュージシャンを描いたイラスト同様、人柄そのままの暖かな味わい。


10月15日

『霊戯』の四日間が終わる。

いつも通り、上演中の高揚感のあとに、山積みの反省点、問題点が残された。

一週間後には、シンガポールにおもむき、郭宝崑没後十年を記念するフェスティバル参加する。

何はともあれ、いったん『霊戯』から離れて、頭の切り換えとクールダウンが必要。

というわけで(?)、明日は久留米。 


10月14日

『霊戯』上演。

今回は、やるべき時にやるべきことことを実行できた、という手応えが確かにある。

時間の積み重ねと幾層にもわたるネットワークの編み上げが、偶然の時宜や出会いを必然化する。

八十年代からの「アジア演劇」への仮説を自分なりのかたちで実証出来た。

ここから先は、後続世代への期待。 


10月13日

『霊戯』上演の関連企画、「場所、記憶、対話」シンポジウム。

コーディネータは、中尾薫(大阪大学)、ジェシカ・ヨン(香港浸會大学)。

若手の要請にこたえて参加、協力して下さった日中の研究者のレベルが高く、能と昆劇についての「入門編」としても、「上級編」としても、充実した内容となったと思う。

銕仙会の能楽師、鵜沢久さんのお話、デモストレーションもとても興味深かった。

「伝えるべき内容」があって、はじめて「伝える様式」への問いがあるという内野儀さんの指摘┄┄相変わらず冴えている。


10月12日

12年前、新国立劇場小ホールで、『花降る日へ 郭宝崑の世界』を開催した。

練馬の黒テント作業場で、参加したインド、インドネシアの演劇人、宝崑、その他大勢のゲストとともに夜通し騒いだ打ち上げパーティ。

オーストラリアの劇作家ジョン・ロメリルが「マコト、嬉しいだろう」と肩を抱いてくれた。

そして今日、南京からの若い俳優たちを交えた『The Spilits Play 霊戯』の初日乾杯。

嬉しかった┄┄宝崑、ありがとう。 


10月10日

『霊戯』、舞台稽古。

ここから先は、俳優と観客の時間。

双方を観察しながら、次の「何か」について考える。

演出家としての視線ではない。

演劇と劇場の「確信犯」として。


10月9日

午後、『霊戯』、稽古場で通しを一回。

再演ならではの仕上がりを確認。

ダニー・ユン組は劇場に入り、これまでのワークショップから作品へのまとめ作業。

両方の舞台に出演している、能の清水さん、昆劇院からのふたりは、連続九時間の濃密稽古。

さあ、泣いても笑っても、あと一日。


10月8日

劇場で明かりづくり。

プランナーの斎藤さん、オペレーターの中田さん、その他、今回は舞台監督でついている鈴木さんと、いずれも、長い間現場をともにしてきた仕事仲間。

音響プランナーの島さん、オペレーターの勝見さんも同じく。

大声もなく、坦々とすすむ作業に、『ふたごの星』からお願いしている映像の飯名尚人さんが加わる。

空間にあわせた微調整をつづける飯名さんも、すでに気心の知れた仲間の風情。


10月7日

11日から上演の『霊戯』、衣装付き通し稽古。

どうやら、昨年の「鴎座」上演から、一歩先に進んだ出来上がりに辿りつけそう。

南京から参加のふたりを含めて、スタッフ、キャストの稽古場での集中力が半端ではない。

いまこの時に、この作品の上演を東京、シンガポールでおこなえる巡り合わせを思う。

作者、郭宝崑の祈りにも似た作品主題が、一気に浮上する瞬間を夢見る。


10月6日

上演百一回目を迎えた『旅とあいつとお姫さま』、一般公演を観劇。

口コミのせいもあって、開演前の客席にはしっかりとした期待感が満ちている。

四年前、開場と同時に初製作した舞台は、劇場にとって、幸福なレパートリーになった。

演出のテレーサをはじめ、スタッフ、キャストの誠実な取り組みに感謝。

さて、さらにこの先、上演二百回を目指して坦々と。 


10月5日

『霊戯』出演の南京昆劇院メンバーが昨日、来日。

今日は香港から、第二部演出のダニー・ユンも。

三年間の連続企画。

南京の若い昆劇俳優との稽古場でのコミュニケーションは楽しく、また、内容も濃い。

六日後の初日を目指し、稽古場は静かに爆走。


10月4日

座・高円寺2で『ピン・ポン』、学校公演出発前の舞台稽古。


沖縄での上演を見ながら思い浮かんだアイディアで、冒頭の指人形シーンを全面改訂。

作品全体に、弾みのあるリズムが生まれた。

学校での巡回上演というあたらしい経験が、さらに作品を変貌させ、鍛えてくれるだろう。

子どもたちとともに成長し、変化しつづける舞台。


10月3日

自分を必要としていると他人に告げられること。

幸福なことだと思う。

努力しなければならない。

求められたことを全うするためにではない。

自分もまた、誰かに求める人でありつづけるために。


10月2日

稽古二日目。

全体の三分のニほど進み、どうやら今年の上演の大枠が見えてきた。

宝崑のテキストと鍛練された声と様式で整えられた体とを、ただそのままの姿で空間に丁寧に置いてみる。

子どもたちとの舞台で確信を得た観客席の創造力への信頼にすべてをゆだねる。

いまこの時の表現を、衒いなく、可能な限り単純に。


10月1日

『霊戯』、稽古始まる。

昆劇院メンバー到着前に、笛田さんと能の清水さん、西村さんと昨年からの改訂について、こころみる。

今年の上演には、もうひとり映像プランナーとして飯名尚人さんが加わる。

映像といっても、バイリンガルの劇作家であった郭宝崑の中文、英文のテキストと日本語訳テキストによる文字だけの構成。

稽古場にPCを持ち込んで、稽古に同伴しての素材づくり作業がこころ強い。